風を味方にする方法

風を味方にする方法

以前「サーブを選ぶかリターンを選ぶか論争」の中で、リターンとなった場合、試合の後半に有利な側に立てるように、まず自分が好まない方のコートサイドを選ぶ考え方もあると、ご紹介しました。

コートのサイドが、逆風と追い風に分かれていた場合、あなたはどちら側が有利と思いますか?
風の影響をモロに受ける穴開きボールですから、「追い風」と答える方が大半と思うのですが、実はそうでもないようなのです。
ドロップは逆風有利
多少の異論もあるかもしれませんが、一般的な対応策を表にしてみました。
追い風 | 逆 風 | |
スピンを多く | サーブ | 長めに強く |
スピンを多く | ドライブ | 低めに強く |
低いトップスピンが有効 | 回転 | 高いスピン スライスも? |
落とすより攻撃優先 | ドロップ | うまく使えば有効 |
風に乗らないように | ディンク | より攻撃的に |
ほぼ使用不可能 | ロブ | 深く狙えば有効 |
相手の球は浅いので前めに | ポジション | 相手の球は長いので深めに |
追い風では当然、ボールの球足は伸びてしまいますから、スピンを多く、弾道をいつもより低くする必要があります。ドロップはかなり難しくなりますので、普段より少なめにし、中速のドライブをうまく使った方が良いでしょう。
逆風では普段より強めに振り切る必要があります。風に押されると弾道は一旦大きく上に吹き上がり、その後に急速に落下していきます。相手にボレーされる場合は、低めに打って相手の足元近くで取らせるのが有効と思います。ただし普段より飛ばないので、ネットミスしないよう、しっかりスイングしてください。ドロップはうまくコントロールする自信があるプレーヤーは使うべきです。風に押し戻されて、相手が前のめりになってミスすることもあるでしょう。
下の動画では、逆風時に有効な球種としてスライスをあげていますが、実際どうでしょうか? 相手がキッチンにいない場合は、使えるかもしれませんが、ボールが浮き上がってしまう分、相手にネット前の高い位置で取られるのは危険と思います。
逆風でも、風速がそれほどでもない場合、あくまで相手が後ろにいる場合のリターンなどで使うなど、用途は限定されると感じています。
▶「Pickleball Playbook」動画より
ラインを狙わずに、大きめの目標を狙う。
風ばかり気にしてスイングを緩めてしまうのではなく、
逆に高速化させて、スピンをかけて振り切った方が良い
などのアドバイスは参考になります。
反応時間が分かる研究
ドロップが逆風有利なのは理解できますが、ドライブの場合や、反応時間に絞ってみると、どちらが有利なのでしょうか。
次のカナダのサイモン・フレーザー大学の研究があります。
難しいですが、一応リンク先を貼っておきます⏬️
https://sportrxiv.org/index.php/server/preprint/view/456/958?ref=thedinkpickleball.com
風速16km(10mph)の逆風、無風、16kmの追い風、24km(15mph)の追い風の4パターンで計測し、コートのベースラインから相手のベースラインまで、水平距離にして44フィート(13.4m)を飛ばす実験です。
逆風の場合は距離を伸ばすために、強く打ち出されるため、初速は大きいですが、途中から大きく減速し、最後はわずかに速度が上がる曲線を描いています。これはボールが風で吹き上がり、落下手前で、急激な下方への力が働くため、だそうです。
それ以外の風の場合は、ほぼ一定の速度を保ちます。追い風の場合、ボールが伸びると感じるのは、無風状態の時の初速に比べて、減速の差が少ないためで、速度自体が上がっていく訳ではありません。
ややこしい話になってしまいましたが、注目すべきは、すべての風の条件下で
約27フィート(8m)地点で、ボールの速度がほぼ同じになることが判明した
という点です。
短い距離のドライブなら逆風有利
半面のコートの長さが6.7mですから、ちょうど相手キッチンラインの手前60cmほどの距離です。奇しくも戦術上最も大切にされる、体を伸ばした相手の手が届く地点です。
ここで、どの風の条件下でも同じ、時速38kmになります。
ということは、それより短い距離の場合、
コート中央からのドライブに対する反応時間は、通常より少なくなるということです。
至近距離から、ものすごい速い初速のボールが来てアウトと思って見逃したら、風の影響で急激に減速して入っていた、なんて経験、誰しもがあるのではないでしょうか。
追い風側の相手からの強いショットも伸びてくると感じて嫌ですが、逆風側の相手からの強いショットに対峙するのも、非常に難しいということが分かります。
プロからの教え5選
最後に男子トッププロ、ジェームズ・イグナトヴィッチ選手から、風がある状況下でプレーする際のアドバイスです。
▶「Selkirk TV」動画より
①ドライブを多く センター狙い
風の影響を受けづらいトップスピンを多く使う。追い風、逆風にかかわらずサードショットドロップは難しくなるため、ドライブを多く使う。
狙いは左右ズレても大丈夫なセンターを多くする。追い風の場合は、低めの軌道を描くドライブ。わざわざ深く打ってアウトのリスクを負うより、相手の低めの位置でボレーさせることを狙う。
②3ショットではなく5ショットで
サードショットドロップで前に行くことに固執せず、5ショットでもいいと、なるべくドロップが簡単になるような工夫をする。
③パドルバトルはコンパクトに
風でボールが動くので、大きなスイングは命取り。とにかくコンパクトにまとめてボレーは前に出すようにしている。胸の当たりではなく、体の前で小さなスイングを心がける。大きなスイングになりがちなバックハンドボレーも同じ。
風がある場合は、パワーよりも一貫性が高い方がより大事になる。
④クロスを多く スライスは避ける
リターンは高く深く打とうとしなくていい。風の影響による誤差が許される範囲で十分。
さらにクロスコートに打てば、スペースが広がる。トップスピンをかけて早く落下させれば、風の影響を受けにくくて済む。スライスは追い風の時はロングに飛びやすいから避ける。
⑤逆風の時はロブを打つ
もともとロブは好きではないが、逆風が吹いている時に使うのは好きだ。深いボールを打ってもボールは風で戻って来る。空中に高く打ち上げるほど、風の影響は強くなるから。
サードショットでロブを打つことだってある。
⑥フットワークに重きを置く
風を吹いている時は普段以上に足を早く動かした方が良い。ボールは予想外の方向に動いていくから、インパクトする際に、より最後の調整も必要になる。
足を動かしすぎてミスしたなんてことはめったにないので、とにかく足を動かして。バランスが崩れ、肩が左右に傾いているな、と感じたら風の中でのショットは難しくなる。
最後は個人の好み
意外に「逆風有利説」を唱える結果になってしまいましたが、ボールが押し戻されてしまうような、ものすごい強風の場合になると、話は変わってきますよね。
そういえば18歳の絶対女王、アンナ・リー・ウォーターズも「風の強さ、相手にもよるが、少しの逆風なら、逆風の方が、スイングを振り切れるので好きだ」と答えていました。
結局、絶対というものはなく、その場その場の判断ということでしょうか。
皆さんも、風の程度、相手のプレースタイル、自身のプレースタイルの得意不得意を考えて、コートサイドを選択してみてください。